ベテラン会計士のブログ

監査法人のガバナンス・コード

ご存知のように、上場企業にはコーポレートガバナンス・コードの策定が求められています。
それが平成29年3月31日付で金融庁より「監査法人の組織的運営に関する原則<監査法人のガバナンス・コード>」が公表され、監査法人に対してもガバナンス・コードの策定が求められるようになりました。
平成29年4月末時点で大規模監査法人を中心に12の監査法人で採用されています。

上場企業のコーポレートガバナンス・コードは、自分たちがどのような機関構成で、いかに経営の透明性を確保し効率的に組織を運営、管理しているかを、自ら外部に説明することによって、積極的な投資を引き出そうというのが制度導入の1つの狙いでした。
一方、同じガバナンス・コードとは言っても監査法人のそれは、不正会計を見逃さないという社会的期待を果たすために、監査の品質を重視した組織的な運営体制を求める点で、趣旨が大きく異なるものです。

これまで、金融・資本市場の信頼性を確保すべく、様々な制度やルール、仕組みが構築されて整備されて来ました。
その背景には、カネボウ、山一証券、オリンパス、そして東芝・・・と絶え間なく繰り返される不正会計の歴史がある訳ですが、金融・資本市場はその都度、信頼性を取り戻そう、有効な解決策を見出そうと様々な努力を続けてきました。
今回の監査法人のガバナンス・コードの策定もその一つと言えると思いますが、これまであまり踏み込まれてこなかった監査法人の組織運営の在り方に切り込んだ点で、それなりのインパクトがあると思います。
監査法人も自ら積極的に組織改革を行い、それをアピールしていかなくてはならない時代になったと言えるでしょう。

立派なガバナンス・コードを策定したからと言って、直ちに不正会計を発見できるわけではありません。
より実務的な課題として、IT、AI、ビッグデータの活用など、監査テクノロジーの革新も求められています。
すでに世界最強の棋士がAIに勝てない時代です。人のやらかす不正なんてそのうち人工知能を搭載した監査ツールに簡単に見つけられてしまうようになるのかもしれません。

AIやビッグデータ解析などデジタルテクノロジーを駆使して、次々と編み出される不正の手口に対して組織的に戦う、それが近未来の会計士の姿になるのでしょうか。
んー、何だかサイバー犯罪対策課みたいですね、複雑な心境です。

『経営力向上計画』を作成して設備投資の固定資産税を軽減する

『経営力向上計画』、皆さまご活用されてますか?

中小企業者が新たに機械装置を取得する際に、固定資産税(償却資産税)が「3年間」、「1/2」に軽減されるという特例があります。

例えば2,000万円の機械装置(耐用年数15年)を取得した場合、通常ですと初年度約26万円の固定資産税が課されますが、特例利用で13万円に軽減されます。3年間ですとトータルで通常約68万円のところ、約34万円に軽減されます。

機械装置の固定資産税が減免される制度はこれまでありませんでしたので、これから設備投資をお考えの方には見逃せない制度です。

赤字の企業も対象になりますし、従来の生産性向上設備投資減税と違い、最新モデルである必要もありません。

販売開始から10年以内、旧モデル比で生産性が年平均1%以上向上、取得価額160万円以上の機械装置が対象です。

平成28年から平成30年度末までの3年間、各年に取得する機械装置に適用されます。

平成28年に取得すれば、平成29年~31年の3年間の固定資産税が1/2に軽減されます。翌平成29年に取得したものは、平成30年~32年の3年間、平成30年に取得したものは平成31年~33年の3年間、それぞれ1/2に軽減されます。

この特例を利用するためには、生産性を高め経営力を向上させる『経営力向上計画』を策定し、これに基づき機械装置を取得する必要があります。

経営力向上計画』ですが、策定すれば固定資産税の軽減以外にも様々な特例や経営支援措置を受けることができるようになります。

経営力向上計画』は事前に経済産業省への申請と承認が必要となります。年内の申請は大変混雑が予想されますので、今年中に認定を受けようとする場合は早めに申請した方が良さそうです。

詳細な適用要件はどうなの?とか、経営力向上計画はどうやって作成するの?など、ご興味のある方はお気軽にご相談ください。

 

ストレスチェック制度から不正を考える

こんにちは。公認会計士の間です。

今年の12月1日からストレスチェック制度が始まります。マイナンバー制度の陰に隠れてしまい、マスコミでもあまり取り上げられないので、ご存知ない方も多いかもしれませんね。

ストレスチェック制度とは、定期的に労働者のストレスの状況について、医師、保健師等が検査・評価を行ってストレス要因を評価し、職場環境の改善につなげようという制度です。高ストレスと評価された労働者は、本人が希望すれば事業者は面接指導を行い、必要に応じて就業上の措置を講じなければなりません。このストレスチェック制度は従業員50人以上の事業者に義務付けられています。

さてこの制度、職場のストレス要因を取り除き、労働者のメンタルヘルスを改善するという意味で、一見して労働者のためだけの制度と捉えられがちです。しかし、ストレス要因が取り除かれて職場環境が改善されれば、組織の雰囲気も良くなりますし、働く人のモチベーションが向上して売上アップにも繋がるでしょう。見方を変えれば、事業者にとっても意味のある制度であると思います。ひょっとしたら不正の防止にも役立つかもしれません。

「不正のトライアングル」という言葉があります。

人は、不正行為をやろうと思えばいつでもできる環境にあり(機会)、自分の欲望や悩みを解決するためには不正行為を行うしかないと考えており(動機)、不正を行う自分に都合のよい言い訳をこじ付けられる(正当化)時に、不正行為に手を染めてしまうという考え方です。

ストレスが減って、社内コミュニケーションが活発になり、組織風土が風通し良くなれば、それが不正の「動機」や「機会」の減少に繋がる可能性はあります。

ともすれば、不正をルールの厳格化やシステム化で抑え込もうとするきらいがあります。しかし残念なことに、東芝不正会計事件、VW排ガス不正事件、マンション杭打データ改ざん事件等々、現在も不正行為は後を絶ちません。どんなに優れた制度を作っても、いくらルールを厳しくしても、それを守らない人間がいる限り不正を完全に防ぐことはできませんよね。

組織メンバーのメンタルヘルスケアを通じた人的リスクコントロールとでも呼ぶのでしょうか。制度や組織の外面からではなく、メンバーの内面から不正の芽を摘むという視点(アプローチ)は、意外にも、今まであまり議論されてこなかったように思います。ストレスチェック制度はそもそも不正発見・防止の制度ではありませんし、それだけで不正を防止できるとは決して思いませんが、案外、不正対策の1つの方向性を示しているのかもしれません。

海外視察旅行の税務

社内の旅行というと慰安旅行がそれにあたりますが、会社の今後の戦略のため、一部の役員従業員が視察旅行に海外に行く、なんてこと往々にしてあるかと思います。

アベノミクス効果で今まで自粛してきた海外への社員旅行や視察旅行を復活させた会社は結構あるのではないかと思っています。

そこで、今回は、法人が負担する海外への視察旅行の税務について考えていきたいと思います。

海外への視察旅行については、法人税法基本通達9-7-6が存在していますが、個別通達である平成12年10月11日付「海外渡航費の取扱い(法令解釈通達)」が非常に参考になります。要約すると、海外への視察旅行に行った際の「業務従事割合」を計算し、その割合に応じて損金算入できる金額を算出できる、ということです。

「業務従事割合」は以下の算式によって算出します。

(算式) 「視察等の業務に従事したと認められる日数」÷(「視察等の業務に従事したと認められる日数」+「観光を行ったと認められる日数」)

この結果、原則は、業務従事割合に応じて損金算入出来る金額が算出されますが、①「業務従事割合」が90%以上となれば、全額損金算入でき、10%となれば、逆に全額損金できない、となっています。

また、その旅行が業務遂行上直接必要とされ、業務従事割合が50%以上であれば、往復の交通費は全額損金算入でき、その他の費用を業務従事割合相当分損金に算入出来ることとなっています。

さらに、 証拠資料とともに海外視察等の動機、参加者の役職、業務関連性等を十分検討する必要があります。

単純ではないですね。海外視察旅行であれば、感覚的には損金にできそうですが、その名目で実際に慰安の色が強ければ、「給与」として源泉課税されることとなってしまいます。

参加者の詳細な「業務報告書」の提出や綿密なスケジュールに基づき、タックスプランニングを検討しつつ、計画の修正、実行といったように進めていくことが肝要なのだと思います。

 

福利厚生費の税務

経営者の皆さんは、従業員の慰安のために色々な福利厚生を考えると思います。

就職活動において、学生が企業を選択する際の重要な一つのポイントにもなっているようですしね。

ただ、税務では、福利厚生費ってかなり限定されているんです。

原則は、従業員に対して支出する会社の経費は、給与もしくは交際費等になり、税務の世界では、福利厚生費となるのは、例外だと考えておくのがいいと思います。

では、福利厚生費として税務上認められるためには、何に気をつけるべきでしょうか?

ポイントは、

1.従業員一律にサービスを提供する(機会を与える)こと

2.通常要する費用であること

です。例えば、社員旅行であれば、従業員全員が参加する権利をもっており(なお、例外的に入社1年未満は除く等、合理的な要件がある場合は別です)、かつほとんどが参加(半分以上の参加)した場合で、世間的に豪華ではないこと、となります。なお、国内旅行の場合、4泊5日以内という基準もあるようです。

ここで、難しいのは、「通常要する費用」です。その時の物価等にも影響すると思われますが、一人10万円を超えるような旅行は、通常の域を超えている、と判断しているようです。

そういう意味では、欧米等それなりに高額になる海外旅行は、給与課税のリスクがあるので、そういった旅行を計画する場合は、旅行積立金等であらかじめ給与からの天引きをしておいて、そこから一部を捻出し、一部を会社が負担する、といった対策をする必要があります。

私の解釈では、課税当局が「羨ましい」と思うと通常要する費用を逸脱するとなるのでは?なんて思っています(^^;


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