でんた丸ブログ
道をひらく
以前紹介した経営の神様と呼ばれる松下幸之助が執筆した本の中には、戦後2位のロングセラーで、今も多くの人に読み継がれている随筆集があります。それが1968年に出版された『道をひらく』です。この本では、以下の3点が生きる上で重要とされています。
・素直な心=自分の利害を超えた利他の心
・志を立てる
・真剣である→失敗から学ぶ前向きな姿勢
当たり前と考えていても、当たり前に実行することがなかなかできないからこそ、長い間、座右の書として重宝されてきたのでしょう。
縦串と横串
現横浜市長である山中竹春氏は、市長となる前は、横浜市立大学の医学部教授でしたが、専門は、データサイエンスです。データサイエンスは、統計学とコンピューターによる計算(情報学)の2要素から成り立っている学問であるところ、医学部・経済学部・工学部などに、データサイエンスの1要素である統計学を専門とする研究者がそれぞれ所属して、教育・研究を行っているというのが従来からの日本の現状でした。統計学という方法論を専門とする統計学部が米国には従来からある一方で、日本ではそのような学部は今までなかったのです。しかし、今日ではIT人材不足を懸念して、2017年の滋賀大学におけるデータサイエンス学部の開設を皮切りに、様々な大学でデータサイエンスの専門学部が誕生しています。
2022年度の情報処理推進機構の調査によると、日本企業では、ITに見識のある役員の割合が3割未満というグループが全体の7割と大多数を占めており、ITに見識のある役員の割合が5割合以上というグループは全体の2割未満とかなり少数派です。一方、米国企業では、ITに見識のある役員の割合が5割合以上というグループが、全体の4割も占めており、ITに見識のある役員の割合が3割未満というグループと同じ位あります。
これから経済において高い生産性が求められる中では、AIを活用して、信頼できるデータ分析に基づいて意思決定のできる経営者の重要性が益々高くなります。個別産業分野を縦串とすれば、データサイエンス等の分野横断的な方法論を武器にうまく横串を通すことのできる人材の価値が今まで以上に高まっていくでしょう。
AIの限界
前回は、AIが仕事の生産性を高めるというプラスの側面について書きました。コンピュータは昔から計算や記憶が得意ではありましたが、最近では、大規模言語モデル(LLM)を用いた生成AIが登場し、人間に近い流暢な会話をすることまで可能となりました。
しかし、AIは手段にすぎず、またAIに限界があるのも事実です。生成AIは、過去の膨大な人間活動や知識を学習しますが、まず、その学習元となる膨大なデータの信頼性を評価する必要があります。更に、ディープラーニング(深層学習)をした生成AIが平然と事実と異なる答えを導き出してしまうhallucination(ハルシネーション、幻覚)と呼ばれる現象も生じるために、生成AIの出力内容の信頼性を人間が評価する必要があります。生成AIの出力内容には偏りや虚偽が平然と紛れ込んでいるという事実があるため、生成AIがどのような情報を学習した上で、どのような出力過程を経て出力をしているのかを正しく理解して利用しなければなりません。
生成AIを上手に利用して、より人間らしい経済の姿を築き、人間らしい生活を享受することが重要なことであり、それが目的、Visionです。そうすると、「人間とは何か」ということが問われ、それについて各人が考えていく必要があります。例えば、倫理(生き方の中で中心にあるもの、モラル)観といったものは生成AIには備わっておらず、人間に備わっているものです。また、人間一人一人が、機械とならずに自分の頭で考え、意思をもって行動したり、コミュニケーションする、というのもAIにはできない人間の特徴です。まさに生成AIの登場は、18世紀後半にイギリスで起こった産業革命だけでなく、人間の精神を解放した「ルネサンス」(14~16世紀のヨーロッパで、中世のしきたりに囚われず、人間らしさを求めた新しい文化の動き)にもなぞらえることができるでしょう。
AIは敵か味方か
第1次産業革命が英国で起こり水力や蒸気機関を動力源とする紡績機が出現すると、職を奪われた労働者が、労働環境の改善を求め機械や工場建築物を打ち壊すという運動が起きました(ラッダイト運動、1811年~1817年)。現代のAIにおいても、AIの発展により職を奪われる人がいます。CMではAIキャラクターが使われ始めました。出演者とのスケジュール調整も要らずに低コストで魅力的なAIキャラクターを作ることができるようになり、しかもAIキャラクターには不祥事が生じません。AIにより職を奪われる人から見れば、AIは敵といえそうです。
しかし、AIは明らかに生産性を高めます。AIの発展により職を奪われる人も、新たな能力を獲得しAIを上手に利用して高付加価値な人材となる必要があります。国もこのような人達を支援するために、リカレント教育に対し教育訓練給付制度を設けています。著作権といった法的な制度整備も進められています。AIを敵とみなすのではなく、AIと共存できる能力を磨き、AIを味方につけ生産性を向上させるという発想の転換が求められています。
では、AIと共存できる能力を磨いた高付加価値な人材像とは、どのようなものなのでしょうか。次回は、この点について考えてみたいと思います。
経営の神様
年初に、現代における先見力と行動力の重要性について書きました。このことは経営にも当てはまり、先見力を駆使して目標を掲げ、熱意をもってその目標の実現に向けリーダーシップを発揮し、組織を動かす行動力が求められます。
アナリストのように将来を予測するだけではなく、経営者には行動力も求められます。この点、Panasonicを創業した松下幸之助は、経営の神様といってよいでしょう。松下幸之助(1894年~1989年)は、自らの行動力に裏付けられた心に響く言葉を駆使して、仕事を人に任せ、1933年には事業部制という分権的組織を作りました。そして、この組織は、様々な高品質の家電を世に送り出し、家事労働の負担を軽減するなど人々の暮らしを豊かにし、社会に貢献しました。
松下幸之助は、企業が適正に儲けて税金を払うことにより、国家を富ませようとしました。適正に儲ける経営の先に国家を意識しており、赤字法人でもかまわないというオーナー企業とは異なる企業観の持ち主だったことが窺えます。