でんた丸ブログ

法人が支払を受ける損害賠償金に係る損害賠償請求権の益金算入時期

上場会社等100社のうち約1社は会計不正(粉飾決算と資産の流用)がなされており、その会計不正の内訳は、粉飾決算が8割、資産の流用が2割です。このように法人が横領(資産の流用)等の不法行為の被害を受けることはままあるところ、法人が例えば横領により損害を受けた場合、私法上は、その損害の発生と同時に損害賠償請求権が発生することになります。また、簿記の仕訳上も不法行為による損失と損害賠償請求権が両建て計上されます。では、法人税法上、当該損害賠償請求権をいつ益金算入することができるのでしょうか。私法上、観念的・抽象的に損害賠償請求権が発生したといっても、当該権利の相手方、金額などが明らかにならなければ権利行使ができず回収もできません。

法人税法では益金の認識基準として一般に実現主義や権利確定基準が採用されている(同法22条4項の公正処理基準が根拠とされています。)ため、実現主義や権利確定基準に基づき、益金の算入時期を判断します。そして、当該損害賠償請求権が「実現」や「確定」したといえるためには、その相手方、金額その他権利の内容及び範囲が確定している必要があり、「実現」や「確定」をしたといえる時期に益金算入されることになります。なお、損害賠償請求権に係る回収可能性の問題は、貸倒損失の計上や貸倒引当金の設定に関わる問題であり、今回の益金算入時期には影響しません。

法人税基本通達2-1-43では損害賠償請求の相手方が法人の役員又は使用人以外の「他の者」である場合の損害賠償請求権の益金算入時期について定めていますが、相手方が法人の役員や使用人の場合には、同通達では明らかではありません。学説としては、同時両建説や異時両建説があり、これら学説の内容を考慮すると、当該損害賠償請求権が「実現」や「確定」したといえるタイミングで益金計上されるものと整理されます。

前期損益修正の税務上の取扱い

前期損益修正自体は企業会計原則第二の六で認められています。そこで、前期損益修正益を会計上計上する場合に、税務上は、修正申告すべきでしょうか。また、前期損益修正損を会計上計上する場合に、税務上は、更正の請求をすべきでしょうか。この点については、当該前期損益修正という会計処理が税務上、「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」(いわゆる「公正処理基準」、法人税法22条4項)に該当するか、と言い換えることができます。

ここでは、東京地判平成27年9月25日税資(税務訴訟資料)265号順号12725[過年度外注費当期損金算入事件]と東京地判平成25年10月30日判時2223号3頁[TFK事件](控訴審:東京高判平成26年4月23日訟月(訟務月報)60巻12号2655頁)という2つの裁判例を整合的に理解するために有効な次の基準を、私見ですがご紹介します。

すなわち、①当初の取引時に納税者が分かり得たにもかかわらず前期損益修正の会計処理をした場合には、公平な所得計算を実現し納税者の恣意を排除するという法人税法独自の観点からして、修正申告又は更正の請求をすべきとされます。

②一方で、納税者が当初の取引時には分かりえなかった収益や原価・費用・損失の存在が後になって判明したという場合には、益金又は損金の計上時期に関し納税者の恣意は問題とならないため、それが判明した事業年度の益金又は損金とするのが相当であり、過年度に遡って修正すべきではないとされます。

なお、法人税法上、修正申告や更正の制度(更正の請求の制度を含む。)があることに鑑みて、後に修正すべきことが発覚した場合には、過去の事業年度に遡って修正することが予定されており、原則は修正申告や更正の制度(更正の請求の制度を含む。)を利用することになります(更正の請求については、「更正の請求の原則的排他性」と呼ばれています)。

(参考)

過年度外注費当期損金算入事件の事実の概要:納税者が過年度の外注費の計上漏れに気づき、当期に前期損益修正損を計上したところ、所轄税務署長から法人税・消費税の更正処分を受けた。

TFK事件の事実の概要:会社更生法の適用を受けた貸金業を営む消費者金融会社が、過払金返還請求権が更生債権として確定したことを受けて、かつて受領した制限超過利息等に対して納付した過年度の法人税額について、後発的理由による更正の請求(国税通則法23条2項1号)をしたところ、所轄税務署長から、更正すべき理由がない旨の通知処分を受け、還付が認められなかった。

上記2つの事件において、各納税者は当該処分の適法性を裁判で争いましたが敗訴しました。

暗号資産税制の国際比較

明けましておめでとうございます。本年もどうぞよろしくお願いいたします。

今回は暗号資産税制の解説の最後として、個人の所得税に絞って、暗号資産税制の国際比較を行います。

1.アメリカ

キャピタルゲイン課税

・1年以上保有した場合、最大20%までの税率で課税

・1年未満の保有の場合は、通常の累進課税

2.イギリス

キャピタルゲイン課税

一定の場合、税率20%

3.ドイツ

①1年超保有している場合には、原則、非課税

②1年以下保有の場合には、1年の利益合計が600ユーロ以下であれば非課税

4.フランス

キャピタルゲイン課税

・税率30%(ただし、累進税率が30%より低いときには累進課税を選択可)

・年間の利益が305ユーロ以下は非課税

なお、暗号資産間での交換をしてもキャピタルゲイン課税の対象になりません。

このように20~30%という固定税率が諸外国では採用されていますが、日本では累進税率となり最高税率が45%(住民税込みで55%)と諸外国に比して税負担が重くなっているため、海外に移住する暗号資産投資家が現れてきています。

そこで日本において暗号資産の業界団体、自主規制団体から一律20%の税率が適用される申告分離課税への税制改正の要望が出ています。

暗号資産に関する課税ルール

メルカリでビットコインによる決済が可能になり、暗号資産の利便性が高まる一方で、暗号資産に関する日本での課税ルールは、国民が暗号資産にアクセスしたり利用したりすることを躊躇させる内容であると批判されることがあります。暗号資産に係る所得に対する日本の税率が高いため、海外へ移住する個人投資家も現れています。そこで、今回は日本での暗号資産に関する課税ルールを取り上げ、次回は暗号資産に関する課税ルールの国際比較を行います。

1.個人の暗号資産取引による所得の区分

暗号資産取引により生じた損益は、邦貨又は外貨との相対的な関係により認識される損益とされ、原則として雑所得(所得税法35条1項、2項2号)に区分されます。但し、その年の暗号資産取引に係る収入金額が300万円を超え、かつ当該取引に係る帳簿書類の保存がある場合には、原則として事業所得(同法27条)に区分されます。いずれの場合も、総合課税の対象となるため、超過累進税率(住民税込みで最高55%)が適用されます。

※ 国税庁は、暗号資産を支払手段つまり資産の値上がり益が生じない資産として位置づけており、譲渡所得(所得税法33条1項)の基因となる「資産」には該当しないとの見解を採用しています(国税庁「雑所得の範囲の取扱いに関する所得税基本通達の解説」参照)。

なお、暗号資産同士の交換を行った場合にも、課税が発生します(この点は法人が当該交換を行った場合も同様です)。つまり、保有するビットコインをイーサリアムに交換した場合であれば、イーサリアムをビットコインで購入したこととなり、当該ビットコインの含み益に対して課税されます。

以上のように、暗号資産取引に関しては、上場株式等に係る譲渡所得等の金額に対する課税と比較して税負担が重いため、上場株式等の場合と平仄を合わせる形で税率20%の申告分離課税等への税制改正を要望する向きがあります。

2.  法人が暗号資産を保有している場合

法人が事業年度終了の時において有する暗号資産(活発な市場が存在する暗号資産に限り、かつ特定自己発行暗号資産を除く。国税庁「暗号資産等に関する税務上の取扱いについて(FAQ)」参照。)につき、時価法による評価換えを行い、その際に生じた評価損益をその事業年度の益金の額又は損金の額に算入する必要があります(法人税法61条2項1号、3項)。そして翌事業年度には、この評価損益につき、洗替処理を実施します。

3.  消費税

消費税法上、支払手段及びこれに類するものの譲渡は、非課税とされているところ、国内の暗号資産交換業者を通じた暗号資産の譲渡は、この支払手段等の譲渡に当たり消費税は非課税となります(消費税法6条1項・同法別表第2第2号・同施行令9条4項)。

また、課税売上割合の算出に当たっては、支払手段等に該当する当該暗号資産の譲渡につき、非課税売上高に含めて計算する必要はありません(消費税法30条6項・同施行令48条2項1号)。

地方公共団体間での税源の偏在

我が国では、地方公共団体間で税源が偏在しているため、住民1人当たりの税収額の格差が極めて大きい点が問題となっています。特に地方税の計40数兆円の約2割を占める「地方法人2税」と呼ばれる法人住民税(法人税割)と法人事業税の税収が、東京都などの大都市圏に偏在しています。このような格差を是正するために、国税(国が賦課・徴収する租税)を地方公共団体に交付ないし譲与する地方交付税地方譲与税がありますが、このような名称の税目があるわけではありません。今回は具体例でこの点をみていきます。(なお、次回からはリース会計基準の改正についてみていきます。)

1.地方法人税

地方法人税法は平成26年に公布・施行され、地方税である法人住民税(法人税割)の一部を地方交付税の原資にする趣旨で、地方法人税が創設されました。地方交付税法により、国税である地方法人税の全額が一定の基準に基づき、地方公共団体に配分・交付されます。

※法人税確定申告書と地方法人税確定申告書を1つにした様式を使用することで、両申告書の提出を同時に行えるようになっています。

2.特別法人事業税

特別法人事業税及び特別法人事業譲与税に関する法律は平成31年(令和1年)に公布・施行され、地方税である法人事業税(所得割・収入割)の一部(法人事業税の約3割)を分離する形で、特別法人事業税(国税)と特別法人事業譲与税が創設されました。地方譲与税の1種である特別法人事業譲与税は、特別法人事業税の全額を都道府県に譲与するものです。

※特別法人事業税は、法人事業税と同じ申告書・納付書により、法人事業税と併せて都道府県に申告納付することになり、いずれか一方のみを納付するということはできません。そして、法人事業税と併せて納付された特別法人事業税は、都道府県から国に対して払い込まれ、特別法人事業譲与税として各都道府県に再配分(譲与)されます。

このような再配分は、地方への税源移譲ではなく、国主導の財源調整という集権的手法(いわゆる「ばらまき」)であり、地方の国依存を深めているという批判があります。現に、自立して財政運営できる自治体の数(地方交付税を受け取らない不交付団体の数)は、リーマンショックを機に急減して以降、増加傾向にあるものの極めて緩やかなものにとどまり、リーマンショック前の140超の半分程度で足踏み状態にあります。

 

 

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