でんた丸ブログ

会社法上の分配可能額規制(その2)

今回も前回に引き続き、分配可能額規制にまつわる論点を取り上げていきます。

3.分配可能額規制違反を予防するために、会社が採るべき方策

・分配可能額規制の適用範囲や分配可能額の計算方法について正確な理解をする。

【分配可能額の計算方法】会社法は、債権者と株主との利益調整の観点から、分配可能額の計算において自己株式の処分の場面で分配可能額を容易には増やせないような政策的判断をしている。

・自己株式の取得枠の設定を決議する段階で、実務上は、予防的に当該設定額の分だけ分配可能額があたかも減ったかのように考えておく。

※法律上は枠の決議をした段階では分配可能額は減らず、会社から委託を受けた信託銀行等が個別の取得行為をする段階で、当該取得した自己株式の帳簿価額分だけ分配可能額が減ることになる。

・分配可能額に関する会社内部のチェックは、総務・法務部門と経理・財務部門の双方で行うとするか、又は法務と財務の両方の観点から企業行動を全体的にチェックできる経営戦略部門を設置し、そこでチェックする。

・分配可能額の計算においては、単に確定した計算書類だけでなく、決算後の剰余金の配当や自己株式の取得についてもみていく必要がある。

・完全子会社であっても、親会社とは異なる債権者がいるので、会社法上の分配可能額規制が課される点を意識する。

4.会計監査人の責任の有無

2006年の会社法施行により、計算書類の中の利益処分案が廃止され、監査対象から外されたという明確な経緯があるため、会社に分配可能額規制違反があったとしても、会計監査人に法的責任はないという点に異論はないようです。

利益処分案の廃止とともに株主資本等変動計算書が新設され、この株主資本等変動計算書は監査対象となりますが、会計監査人には株主総会における違法な剰余金の配当の決議を差し止める権限を有しないため、会計監査人に法的責任があるとするわけにはいかないということです。

もっとも、コンプライアンスの観点から、会計監査人が分配可能額規制違反を予防することが期待されています。

(注)監査役等(監査役、監査委員、監査等委員)は、株主総会に上程される議案の適法性を監査する立場にあるため、会社に分配可能額規制違反があった場合には、責任問題が発生します。

会社法上の分配可能額規制(その1)

3月決算の企業では、6月下旬に株主総会がありました。株主総会では剰余金の配当の決議がなされるところ、近年、分配可能額規制(会社法461条)違反が増加しているため、今回はこの点を取り上げます。

1.  分配可能額規制違反が増加している背景

・会社はPBRの1倍割れ問題等もあり、株主への還元を促進させようと配当や自己株式の取得を増やしている。

・上場会社では、連結を中心に会社の業績を公表し、総還元や配当性向も連結をベースに考えることが多いが、会社法 における分配可能額は単体で考える必要がある。

・分配可能額に関する会社内部のチェックの主管部門について、総務・法務部門なのか、経理・財務部門なのかが明確に決まっていない。

・金融商品取引法上のインサイダー取引規制への抵触を回避するため、会社は自己株式の取得をする際には、取得枠を設定するだけで、個別の取得行為には会社は関与せず信託銀行等に委ねている。そして、会社が当該取得枠の設定の決議をする段階では、会社法上の分配可能額は減らない。

2.  よくある分配可能額規制違反の原因

・自己株式の取得に、分配可能額規制が課されることを知らなかった。自己株式の取得を期中にしていくと、分配可能額の計算において、当該取得時点における自己株式の帳簿価額を控除し、分配可能額を減らさなければいけないが、そうしていなかった。

・自己株式の処分は、自己株式の取得の反対の行為ではあるが、取得の際には上述のごとく、その都度分配可能額が減っていくのに対し、処分の場合には、翌年に次の決算が確定したときに剰余金に取り込まれ分配可能額が増えるという形になる。しかし、分配可能額への反映のタイミングが、このように自己株式の取得と処分とで対照的にならない点を理解していなかった。

・分配可能額の計算において、決算が確定していない間の期間損益を取り込んでしまった。

次回は、今回に引き続き「分配可能額規制違反を予防するために、会社が採るべき方策」及び「会計監査人の責任」について取り上げていきます。


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