でんた丸ブログ

会社法上の分配可能額規制(その1)

3月決算の企業では、6月下旬に株主総会がありました。株主総会では剰余金の配当の決議がなされるところ、近年、分配可能額規制(会社法461条)違反が増加しているため、今回はこの点を取り上げます。

1.  分配可能額規制違反が増加している背景

・会社はPBRの1倍割れ問題等もあり、株主への還元を促進させようと配当や自己株式の取得を増やしている。

・上場会社では、連結を中心に会社の業績を公表し、総還元や配当性向も連結をベースに考えることが多いが、会社法 における分配可能額は単体で考える必要がある。

・分配可能額に関する会社内部のチェックの主管部門について、総務・法務部門なのか、経理・財務部門なのかが明確に決まっていない。

・金融商品取引法上のインサイダー取引規制への抵触を回避するため、会社は自己株式の取得をする際には、取得枠を設定するだけで、個別の取得行為には会社は関与せず信託銀行等に委ねている。そして、会社が当該取得枠の設定の決議をする段階では、会社法上の分配可能額は減らない。

2.  よくある分配可能額規制違反の原因

・自己株式の取得に、分配可能額規制が課されることを知らなかった。自己株式の取得を期中にしていくと、分配可能額の計算において、当該取得時点における自己株式の帳簿価額を控除し、分配可能額を減らさなければいけないが、そうしていなかった。

・自己株式の処分は、自己株式の取得の反対の行為ではあるが、取得の際には上述のごとく、その都度分配可能額が減っていくのに対し、処分の場合には、翌年に次の決算が確定したときに剰余金に取り込まれ分配可能額が増えるという形になる。しかし、分配可能額への反映のタイミングが、このように自己株式の取得と処分とで対照的にならない点を理解していなかった。

・分配可能額の計算において、決算が確定していない間の期間損益を取り込んでしまった。

次回は、今回に引き続き「分配可能額規制違反を予防するために、会社が採るべき方策」及び「会計監査人の責任」について取り上げていきます。

扶養義務者相互間でなされた生活費又は教育費に充てるための贈与

暦年課税又は相続時精算課税に係る贈与がなされた場合に、生前贈与加算の対象となるのは、原則として「贈与税の課税価格計算の基礎に算入されるもの」です(相続税法191項第1括弧書、21条の151項括弧書)。従って、贈与税の非課税財産(相続税法21条の3)は、贈与税の課税価格に算入されないため、上記の生前贈与加算の対象にはなりません。 

ここでは、贈与税の非課税財産のうち、「扶養義務者相互間において生活費又は教育費に充てるためにした贈与により取得した財産のうち通常必要と認められるもの」(相続税法21条の312号)についてご紹介いたします。

 この非課税財産の該当性については、以下の3つのポイントがあります。

 当該贈与が、
① 扶養義務者相互間でなされたものであるか

② 生活費又は教育費に充てるためになされたものであるか

③ 通常必要と認められる範囲内のものであるか

です。

以下では詳細を省略して簡潔に紹介するにとどめますので、詳細をお知りになりたい方は、国税庁が平成2512月に発出した『扶養義務者(父母や祖父母)から「生活費」又は「教育費」の贈与を受けた場合の贈与税に関するQA』をご覧ください。

1.扶養義務者 

扶養義務者に該当するか否かは贈与時の状況により判断します。 

扶養義務者とは以下の者をいいます。 

① 配偶者

② 直系血族及び兄弟姉妹 

③ 家庭裁判所の審判を受けて扶養義務者となった三親等内の親族 

④ 三親等内の親族で生計を一にする者 

2.生活費又は教育費 

生活費とは、その者の通常の日常生活を営むのに必要な費用(教育費 を除きます。)をいいます。また、治療費や養育費その他これらに準ずるもの(保険金又は損害賠償金により補てんされる部分の金額を除きます。) を含みます(相続税法基本通達2133)。 

教育費とは、被扶養者(子や孫)の教育上通常必要と認められる学資、 教材費、文具費等をいい、義務教育費に限られません(同通達213-4 

3.通常必要と認められるもの 

必要な都度直接、生活費又は教育費に充てるための贈与である必要があります(相続税法基本通達2135)。 

また、「通常必要と認められるもの」は、被扶養者の需要と扶養者の資力その他一切の事情を勘案して社会通念上適当と認められる範囲の財産とされています(同通達2136)。 

 

みなし贈与財産 (その2)

前回は被相続人から直接、相続人等に対しみなし贈与がなされる場合についてご紹介しました。

今回は、同族会社を通じてみなし贈与がなされる場合をご紹介します。

例えば、被相続人が同族会社に対して貸付金を有していた場合に、当該貸付金を相続税の課税対象から除くために、相続開始前に被相続人が当該貸付金を免除することがあります。この場合、当該会社に債務免除益が計上され、原則として法人税等が課されることとなりますが、同時に当該会社の株価が上昇します。そうすると、当該会社の株主に免除者以外の者がいる場合、免除時に免除者から当該会社の株主に対して贈与があったとみなされ、その株主に当該株価上昇分に相当する金額について贈与税が課されることになります。

相続税法基本通達9-2では、このような場合を含め、みなし贈与が発生する場合として以下の例示をしています。

① 会社に対し無償で財産の提供があった場合

② 時価より著しく低い価額で現物出資があった場合

③ 対価を受けないで会社の債務の免除、引受け又は弁済があった場合

④ 会社に対し時価より著しく低い価額の対価で財産の譲渡があった場合

みなし贈与については、みなし贈与が発生した年度に課税当局から指摘されるというよりも、相続税の調査を通じてみなし贈与の事実が判明し、課税されるケースが実務上は多いようですのでご注意ください。

※ 無意識に発生しているみなし贈与財産は、①暦年課税の場合、相続開始前7年以内に発生したものについて相続税の課税価格に加算され、②相続時精算課税の場合、適用後は相続開始より相当前の期間になされた贈与であっても相続税の課税価格の加算対象になります。

みなし贈与財産 (その1)

1.みなし贈与財産

みなし贈与財産とは、相続税法が贈与により取得したものとみなす財産のことです(相続税法5条乃至9条の5)。その趣旨は、私法上の原因により取得した財産ではないものの、その経済的効果が実質的にみて贈与を受けたのと同様とみなせる場合には、税負担の公平を図る必要があるという点にあります。なお、みなし贈与財産に該当する場合には、所得税は課税されません(所得税法9条1項16号括弧書)。

無意識に発生しているみなし贈与財産は、①暦年課税の場合、相続開始前7年以内に発生したものについて相続税の課税価格に加算され、②相続時精算課税の場合、適用後は相続開始より相当前の期間になされた贈与であっても相続税の課税価格の加算対象になります。

2.低額譲受け

今回は、みなし贈与財産のうち低額譲受け(相続税法7条)についてご紹介いたします。低額譲受けで贈与により取得したとみなされる財産は、低額つまり「著しく低い価額の対価」での譲受けにより受けた利益ということになります。例えば、被相続人が生前に相続人等に対し、不動産等を時価より著しく低い価額の対価で譲渡した場合、譲渡対価と譲渡時の時価との差額についてみなし贈与が発生します。

この点、この「著しく低い価額の対価」の意義が問題となります。みなし譲渡に係る所得税法59条1項2号の「著しく低い価額の対価」については、所得税法施行令169条に、資産の時価の「二分の一に満たない金額」をいうとして金額基準が明確に示されているのに対して、相続税法の方ではこのような規定がないからです。結局、相続税法がみなし贈与財産として課税する前述の趣旨(税負担の公平)に照らし、個々の具体的事案に応じて判定することになります。

3.時価

時価とは、その財産が土地や借地権、家屋や構築物などの場合には「通常の取引価額に相当する金額」をいい、それら以外の財産である場合には「相続税評価額」のことをいいます(国税庁タックスアンサーNo.4423)。

(注)

著しく低い価額の対価で財産を譲り受けた場合であっても、譲り受けた者が資力を喪失して債務を弁済することが困難である場合で、その弁済に充てるためにその者の扶養義務者から譲り受けたものであるときは、その債務を弁済することが困難である部分の金額については、贈与により取得したものとはみなされません(相続税法7条但書)。

相続税の課税価格に加算される生前贈与財産と債務控除の関係

相続人又は包括受遺者が被相続人から相続等により債務を承継するケースについて、その債務額が取得する財産の価額を上回るとき、相続税の課税価格に加算される生前贈与財産の価額と相殺することができるのかが問題となります。

そこで以下では、暦年課税の場合と相続時精算課税の場合に分けて考えていきます。

1.  暦年課税の場合

債務及び葬式費用の額が取得財産の価額を上回っていたとしても、その控除しきれない額は、暦年課税分の贈与財産価額からマイナスすることはできません(相続税法基本通達19-5)。

(例)

取得財産(相続財産)の価額 100、債務及び葬式費用の金額 120、暦年課税分の贈与財産価額 30 のケース

純資産価額=100-120=△20 ➡ マイナスとなる場合には、ゼロとなる。

課税価格=純資産価額+暦年課税分の贈与財産価額=0+30=30

2.相続時精算課税の場合

相続時精算課税を選択した受贈者が相続人又は包括受遺者である場合、相続時精算課税の適用を受ける贈与財産の価額から債務及び葬式費用の金額を控除することができます(相続税法基本通達13-9)。

(例)

取得財産(相続財産)の価額 100、債務及び葬式費用の金額 120、相続時精算課税の適用を受ける贈与財産の価額 30 のケース

純資産価額=100+30-120=10(上記1.のケースと同様に、マイナスとなる場合には、ゼロとなる。)

課税価格=純資産価額 10+「暦年課税分の加算がある場合の、暦年課税分の贈与財産価額」

 

 

 

 


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