でんた丸ブログ
評価会社が課税時期前3年以内に取得した土地等及び家屋等の価額の特例
取引相場のない株式等を純資産価額方式で評価する場合、評価会社が有する土地等及び家屋等のうち、課税時期前3年以内に取得したものについては、路線価や固定資産税評価額ではなく、それよりも高い課税時期における通常の取引価額で評価することとされています(財産評価基本通達185の括弧書)。
この特例の趣旨について、国税庁は、以下のように説明しています。
① 個人が所有する土地等の評価を行うことを念頭においた路線価等によって評価替えすることが唯一の方法であるとは限らないこと。
② 適正な株式等の評価の見地からはむしろ通常の取引価額によって評価すべきものであるとも考えられること。
③ 課税時期の直前に取得(新築)し、「時価」が明らかな土地等や家屋等についても路線価等や固定資産税評価額によって評価替えすることは、「時価」の算定上、適切ではないと考えられること。
なお、国税庁の通達では、評価会社が有する土地等及び家屋等の帳簿価額が課税時期における「通常の取引価額」に相当すると認められるときには、帳簿価額に相当する金額によって評価できるとしています。
※ 日本公認会計士協会「令和7年度税制改正意見書」では、以下の理由により、本特例を個人所有の場合に平仄を合わせる形で廃止すべきであるとしています。
① 個人が所有している土地等及び家屋等には現在は設けられていない例外であること。
② 事業投資についての経営判断にも影響し得ること。
相続財産の種類
土地の売買契約締結後、当該土地が引き渡されるまでに、売主又は買主が死亡し相続が開始した場合、相続財産をどのように考えればよいのでしょうか?仮に相続財産を土地とすると、当該土地は財産評価基本通達により評価され、一般にその評価額は売買契約上の取引価額よりも低めとなります。
この点、当該土地の所有権が既に売主から買主へと移転しているか否かを問わず、一般的なケースにおける現在の課税実務では、以下のような結論になります(橋本守次『実務家のための資産税重要事例選集[4訂版]』[2013]159頁参照)。
1.売主が被相続人となるケース
相続財産:売買契約に基づく土地の譲渡対価のうち相続開始時における未収入金
2.買主が被相続人となるケース
相続財産:売買契約に係る土地の引渡請求権等
相続債務:相続開始時における当該売買契約に係る未払金
※ 上記の引渡請求権等の価額について
原則:売買契約に基づく土地の譲渡の対価の額
例外:売買契約日から相続開始日までの期間が通常の場合より長期間であるなどの理由で、その対価の額が相続開始日における土地の時価として適当でない場合には、別途適切な売買実例などを参酌して評価した価額
なお、上記2.のケースでは、例外的に土地を相続財産として申告することが認められています。この場合には、当該土地の価額は財産評価基本通達により評価した価額となります。
日本の相続税制度の特徴と歴史
日本の相続税制度は、遺産課税方式と遺産取得課税方式のいわゆる併用方式(法定相続分課税方式による遺産取得税方式)を採用しています。すなわち、遺産分割を仮装した租税回避又は脱税を防止するとともに相続人間の税負担の公平を期するために、民法上の法定相続人が、法定相続分にしたがって遺産を分割取得したものと仮定して相続税の総額を計算し、この相続税の総額を、実際に遺産を取得した者が、その取得分に応じて納付するという方式になっています。
1.遺産課税方式(遺産税)
・人が死亡した場合に、その遺産を対象として課税する制度
・人は生存中に蓄積した富の一部を死亡にあたって社会に還元すべきであるという考え方に基づく、本来の意味の財産税です。
・アメリカ、イギリスなど英米系の国々で採用されています。
2.遺産取得課税方式(遺産取得税)
・人が相続によって取得した財産を対象として課税する制度
・偶然の理由による富の増加を抑制することを目的としており、所得税の補完税としての実質を有しています。
・ドイツ、フランスなどヨーロッパ大陸諸国で採用されています。
3.日本における相続税制度
・1905年(明治38年)に相続税を採用した当時は遺産税を採用
・1950年(昭和25年)のシャウプ税制以降は、遺産取得税へ移行
・現行の法定相続分課税方式は、1958年(昭和33年)の相続税法改正で採用されました。これにより、税額の合計額は、遺産が最終的にどのように分割されるかとは関係なく、相続人が法定相続分で相続したと仮定して計算した場合の税額の合計額と等しくなるようになりました。
相続税額の取得費への加算
被相続人から相続等(「等」とは、遺贈(死因贈与を含む。)のことをいいます。以下同じ。)により取得した財産を、その後一定期間内に譲渡した場合には、譲渡益を圧縮することができる特例制度が租税特別措置法に定められているので、今回はこの制度についてご紹介いたします。
【相続財産に係る譲渡所得の課税の特例について】
相続等による財産の取得をした個人で、その相続等につき納付すべき相続税額があるものが、相続開始があった日の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年以内に、相続税の課税価格計算の基礎に算入された資産(一定のものを除く。)を譲渡した場合には、その譲渡所得に係る取得費に、一定の金額を加算し、譲渡所得の金額を計算することができる(租税特別措置法39条)。
(注1)相続税の申告期限:相続の開始があったことを知った日の翌日から10月を経過する日(相続税法27条1項)
例えば、相続の開始があったことを知った日が令和6年6月10日の場合には、相続税の申告期限は令和7年4月10日になります。この場合において、本特例が適用されるための譲渡の期限は、令和10年4月10日になります。
(注2)本特例が適用される場合の譲渡所得は、以下の算式により計算することとなります。
総収入金額-(取得費+取得費加算額+譲渡費用)=譲渡所得の金額
(注3)(注2)における取得費加算額(本特例適用前の譲渡益の金額を限度とする。)は、以下の算式により計算することとなります。
相続税額×(譲渡資産の相続税評価額÷相続税の課税価格)
会社法上の分配可能額規制(その2)
今回も前回に引き続き、分配可能額規制にまつわる論点を取り上げていきます。
3.分配可能額規制違反を予防するために、会社が採るべき方策
・分配可能額規制の適用範囲や分配可能額の計算方法について正確な理解をする。
【分配可能額の計算方法】会社法は、債権者と株主との利益調整の観点から、分配可能額の計算において自己株式の処分の場面で分配可能額を容易には増やせないような政策的判断をしている。
・自己株式の取得枠の設定を決議する段階で、実務上は、予防的に当該設定額の分だけ分配可能額があたかも減ったかのように考えておく。
※法律上は枠の決議をした段階では分配可能額は減らず、会社から委託を受けた信託銀行等が個別の取得行為をする段階で、当該取得した自己株式の帳簿価額分だけ分配可能額が減ることになる。
・分配可能額に関する会社内部のチェックは、総務・法務部門と経理・財務部門の双方で行うとするか、又は法務と財務の両方の観点から企業行動を全体的にチェックできる経営戦略部門を設置し、そこでチェックする。
・分配可能額の計算においては、単に確定した計算書類だけでなく、決算後の剰余金の配当や自己株式の取得についてもみていく必要がある。
・完全子会社であっても、親会社とは異なる債権者がいるので、会社法上の分配可能額規制が課される点を意識する。
4.会計監査人の責任の有無
2006年の会社法施行により、計算書類の中の利益処分案が廃止され、監査対象から外されたという明確な経緯があるため、会社に分配可能額規制違反があったとしても、会計監査人に法的責任はないという点に異論はないようです。
利益処分案の廃止とともに株主資本等変動計算書が新設され、この株主資本等変動計算書は監査対象となりますが、会計監査人には株主総会における違法な剰余金の配当の決議を差し止める権限を有しないため、会計監査人に法的責任があるとするわけにはいかないということです。
もっとも、コンプライアンスの観点から、会計監査人が分配可能額規制違反を予防することが期待されています。
(注)監査役等(監査役、監査委員、監査等委員)は、株主総会に上程される議案の適法性を監査する立場にあるため、会社に分配可能額規制違反があった場合には、責任問題が発生します。