でんた丸ブログ

みなし贈与財産 (その1)

1.みなし贈与財産

みなし贈与財産とは、相続税法が贈与により取得したものとみなす財産のことです(相続税法5条乃至9条の5)。その趣旨は、私法上の原因により取得した財産ではないものの、その経済的効果が実質的にみて贈与を受けたのと同様とみなせる場合には、税負担の公平を図る必要があるという点にあります。なお、みなし贈与財産に該当する場合には、所得税は課税されません(所得税法9条1項16号括弧書)。

無意識に発生しているみなし贈与財産は、①暦年課税の場合、相続開始前7年以内に発生したものについて相続税の課税価格に加算され、②相続時精算課税の場合、適用後は相続開始より相当前の期間になされた贈与であっても相続税の課税価格の加算対象になります。

2.低額譲受け

今回は、みなし贈与財産のうち低額譲受け(相続税法7条)についてご紹介いたします。低額譲受けで贈与により取得したとみなされる財産は、低額つまり「著しく低い価額の対価」での譲受けにより受けた利益ということになります。例えば、被相続人が生前に相続人等に対し、不動産等を時価より著しく低い価額の対価で譲渡した場合、譲渡対価と譲渡時の時価との差額についてみなし贈与が発生します。

この点、この「著しく低い価額の対価」の意義が問題となります。みなし譲渡に係る所得税法59条1項2号の「著しく低い価額の対価」については、所得税法施行令169条に、資産の時価の「二分の一に満たない金額」をいうとして金額基準が明確に示されているのに対して、相続税法の方ではこのような規定がないからです。結局、相続税法がみなし贈与財産として課税する前述の趣旨(税負担の公平)に照らし、個々の具体的事案に応じて判定することになります。

3.時価

時価とは、その財産が土地や借地権、家屋や構築物などの場合には「通常の取引価額に相当する金額」をいい、それら以外の財産である場合には「相続税評価額」のことをいいます(国税庁タックスアンサーNo.4423)。

(注)

著しく低い価額の対価で財産を譲り受けた場合であっても、譲り受けた者が資力を喪失して債務を弁済することが困難である場合で、その弁済に充てるためにその者の扶養義務者から譲り受けたものであるときは、その債務を弁済することが困難である部分の金額については、贈与により取得したものとはみなされません(相続税法7条但書)。

相続税の課税価格に加算される生前贈与財産と債務控除の関係

相続人又は包括受遺者が被相続人から相続等により債務を承継するケースについて、その債務額が取得する財産の価額を上回るとき、相続税の課税価格に加算される生前贈与財産の価額と相殺することができるのかが問題となります。

そこで以下では、暦年課税の場合と相続時精算課税の場合に分けて考えていきます。

1.  暦年課税の場合

債務及び葬式費用の額が取得財産の価額を上回っていたとしても、その控除しきれない額は、暦年課税分の贈与財産価額からマイナスすることはできません(相続税法基本通達19-5)。

(例)

取得財産(相続財産)の価額 100、債務及び葬式費用の金額 120、暦年課税分の贈与財産価額 30 のケース

純資産価額=100-120=△20 ➡ マイナスとなる場合には、ゼロとなる。

課税価格=純資産価額+暦年課税分の贈与財産価額=0+30=30

2.相続時精算課税の場合

相続時精算課税を選択した受贈者が相続人又は包括受遺者である場合、相続時精算課税の適用を受ける贈与財産の価額から債務及び葬式費用の金額を控除することができます(相続税法基本通達13-9)。

(例)

取得財産(相続財産)の価額 100、債務及び葬式費用の金額 120、相続時精算課税の適用を受ける贈与財産の価額 30 のケース

純資産価額=100+30-120=10(上記1.のケースと同様に、マイナスとなる場合には、ゼロとなる。)

課税価格=純資産価額 10+「暦年課税分の加算がある場合の、暦年課税分の贈与財産価額」

 

 

 

 

被相続人から孫への生前贈与が相続税の課税価格に加算されるケース

孫がみなし相続財産を取得する場合 

孫は、代襲相続(民法8872項)、被相続人との間の養子縁組(民法809条)、被相続人からの遺言による遺贈(民法964条)がたとえなかったとしても、被相続人からみなし相続財産(相続税法3条)を取得する場合がありえます。 

このみなし相続財産を取得する場合には、被相続人からその生前中に孫が取得した贈与財産について、暦年課税において贈与税課税のみで課税関係を終了させることができなくなります。被相続人からの相続開始前7年以内の贈与財産について、相続税の課税価格に加算されることになるのでご注意ください。

みなし相続財産の例 

みなし相続財産の一例として、生命保険金(相続税法311号)があります。 

被相続人が保険料を負担していた生命保険契約に係る保険金を受け取る行為は、その受取人が被相続人から遺贈により保険金を取得したとみなされます。 

(参考:相続放棄がなされた場合) 

相続人が相続を放棄(民法939条)した場合にも、注意が必要です。 

相続人が相続放棄をしたとしても、生命保険金等をみなし相続財産として受け取ると、当該生命保険金等を遺贈により取得したとみなされるからです(相続税法3条)。 

そして、このように遺贈があるとみなされると、相続発生時に生前贈与加算がなされます。

暦年課税の基礎控除と相続時精算課税の基礎控除の関係

受贈者が複数の贈与者から贈与を受ける場合には、相続時精算課税と暦年課税の両方を利用することで、年間220万円の基礎控除の適用を受けることができます。

なお、相続時精算課税を適用した受贈者が複数の特定贈与者から贈与を受ける場合、年間110万円の基礎控除はそれぞれの贈与額に応じて按分されますので、相続時精算課税における年間110万円の基礎控除額を増やすことはできません(暦年課税も同様です)。

今般の税制改正で相続時精算課税と暦年課税の合計で年間220万円の基礎控除が存在することになりますが、複数の贈与者がいる場合、適用の仕方によって相続時精算課税と暦年課税とでこの基礎控除がどのような関係になるのかについて、考えてみたいと思います。

簡単化のために、孫が受贈者となり、祖父母と父母が贈与者となるケースを例に考えていきます。

1.受贈者(孫)が祖父母から相続又は遺贈(死因贈与を含む。以下同じ)により財産を取得する予定がない場合

相続又は遺贈により財産を取得する予定がなければ、相続発生時の生前贈与加算については考える必要がなく、贈与税のみで課税関係が終了します。従って、祖父母からは暦年贈与を受けた場合は、暦年課税の年間110万円の基礎控除が適用されます。

一方で、父母からは相続により財産を取得する予定があるため、父母からの贈与について相続時精算課税制度を利用した場合には、年間110万円の基礎控除を別途、適用することができます。

2.受贈者(孫)が祖父母から相続又は遺贈により財産を取得する予定がある場合

一般に、父母よりも祖父母の方が先に亡くなることが多いため、父母からの贈与よりも祖父母からの贈与の方が、相続開始前7年以内の生前贈与加算の対象となる可能性が高いと言えます。ここで、祖父母からの贈与について事前に相続時精算課税を利用していれば、生前贈与加算の対象外となる年間110万円の基礎控除が適用され、その枠の範囲内であれば、相続税の対象とはなりません。

そして、父母からの贈与については、相続開始日が祖父母よりも当分の間先になると想定されるため不確定要素を考慮し、相続時精算課税の適用はせず、暦年課税のまま必要な贈与を実行します。その後、父母が一定の年齢になった時点で、相続時精算課税制度を選択することで、以後の贈与に関しては、これまでと同様に基礎控除額の110万円は確保され、さらにこの基礎控除の枠内であれば生前贈与加算の対象外となります

相続時精算課税制度の効果及び注意点

今回は前2回のまとめとして、相続時精算課税制度の効果及び注意点をご紹介いたします。そして、次回からは、相続時精算課税と暦年課税にまつわる複数の留意点についてご紹介していきます。

1.相続時精算課税制度を利用する場合の効果

①令和6年1月1日以後に受けた贈与について、年間110万円の基礎控除があり、この年間110万円の基礎控除枠内の生前贈与は、相続発生時に相続財産への加算の対象となりません(今般の改正項目)

②年間110万円の基礎控除とは別に累計2500万円の特別控除枠があります。この特別控除枠を利用して、被相続人が安定した家賃収入が見込める賃貸アパートや高配当の有価証券を生前贈与した場合には、当該家賃や配当が、相続発生時に生前贈与加算の対象になることはありません。

③贈与税率が一律20%になります。

④相続発生時における生前贈与加算は、贈与時の時価でなされます。そのため、贈与時よりも相続時に時価が高くなるのが確実な財産を生前贈与した場合には、相続税の節約になります。

2.相続時精算課税制度を利用する際の注意点

①自宅や事業用物件を相続時精算課税制度により贈与した場合、小規模宅地等の特例を使うことができません。また、不動産取得税や登録免許税が課税されます。

②相続時精算課税制度で贈与された財産を、相続税の物納に用いることはできません。

③相続時精算課税を選択し届出書(贈与者ごとに作成)を提出した後は、暦年課税に切り替えることはできません。

 


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