でんた丸ブログ
契約にリースが含まれているか否か(その2)
今回も、資産が介在するサービス契約にリースが含まれているか否かを具体例で検討します。なお、リースの判定前なので、前回と同様に、「借手」ではなく「顧客」、「貸手」ではなく「サプライヤー」という用語を用います。詳細は、ASBJが公表している設例をご覧ください。
【具体例2】
・顧客A社は、5年間にわたり契約で指定された鉄道車両を使用する契約を、貨物輸送業者であるサプライヤーB社と締結した。
・A社は、使用期間全体を通じて当該指定された鉄道車両を独占的に使用することができる。
・A社は、使用期間全体を通じて当該指定された鉄道車両を自由に使用でき、鉄道車両の使用を指図する権利を有している。
・B社は、保守又は修理が必要な場合、鉄道車両を入れ替えることが求められるが、それ以外の場合には鉄道車両を入れ替えることはできない。
1.資産が特定されているか否かの判断について
(規範定立)
適用指針第6項によれば、サプライヤーが、①使用期間全体を通じて資産を他の資産に代替する実質上の能力を有し、かつ、②資産を代替する権利の行使により経済的利益を享受する場合には、当該資産は「特定された資産」に該当せず、当該契約にはリースが含まれないことになります。
(当てはめ)
本件では、①B社が鉄道車両の入れ替えができるのは、保守又は修理が必要な場合に限られるため、B社は使用期間全体を通じて資産を他の資産に代替する実質上の能力を有していません。
よって、当該資産は「特定された資産」に該当します。
2.資産の使用を支配する権利が移転しているか否かの判断について
(規範定立)
適用指針第5項によれば、顧客が、以下の①及び②をいずれも満たす場合に、顧客に「特定された資産の使用を支配する権利」が移転しているといえます。
①顧客が、特定された資産の使用から生じる経済的利益のほとんどすべてを享受する権利を有している。
②顧客が、特定された資産の使用を指図する権利を有している。
(当てはめ)
本件では、①A社は、5年の使用期間全体を通じて当該指定された鉄道車両を独占的に使用することができるため、5年の使用期間全体を通じて当該鉄道車両の使用から生じる経済的利益のほとんどすべてを享受する権利を有しているといえます。また、②A社は、使用期間全体を通じて当該指定された鉄道車両を自由に使用でき、当該鉄道車両の使用を指図する権利を有しています。
よって、A社に「特定された資産の使用を支配する権利」が移転しているといえます。
3.結論
以上から、当該契約において、リースが含まれていると判断されます。
契約にリースが含まれているか否か(その1)
今回は、資産が介在するサービス契約にリースが含まれているか否かを具体例で検討します。なお、リースの判定前なので、「借手」ではなく「顧客」、「貸手」ではなく「サプライヤー」という用語を用います。詳細は、ASBJが公表している設例をご覧ください。
【具体例1】
・顧客A社は、5年間にわたり所定の数量の物品を所定の日程で輸送するサービス提供を、貨物輸送業者であるサプライヤーB社に依頼する契約を締結した。この輸送量は、A社が5年間にわたり10両の鉄道車両を使用することに相当するが、当該契約では使用する鉄道車両の種類のみが指定されている。
・B社は、自らが所有する鉄道車両の中から、輸送する物品の日程及び内容に応じて使用する鉄道車両を決定する。
(規範定立)
適用指針第6項によれば、資産が契約上明記されていたとしても、サプライヤーが、①使用期間全体を通じて資産を他の資産に代替する実質上の能力を有し、かつ、②資産を代替する権利の行使により経済的利益を享受する場合には、当該資産は「特定された資産」に該当せず、当該契約にはリースが含まれないことになります。
(当てはめ)
本件では、➀B社は、複数の鉄道車両を有しており、A社の承認なしに鉄道車両を入れ替えることができるため、B社は、使用期間全体を通じて資産を他の資産に代替する実質上の能力を有しています。また、➁B社は、業務の効率化の観点から、鉄道車両を他の鉄道車両に代替することから生じる経済的利益を、そうすることから生じるコストを上回るよう、どの鉄道車両を使用するかを決定することができ、鉄道車両を代替する権利の行使により経済的利益を享受しているといえます。
(結論)
以上から、当該契約において資産は特定されておらず、リースは含まれていないと判断されます。
リースの定義と識別
今後、新リース会計基準について各論を述べていきますが、企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」を「会計基準」、企業会計基準適用指針第33号「リースに関する会計基準の適用指針」を「適用指針」と略します。
リースの定義:原資産を使用する権利を一定期間にわたり対価と交換に移転する契約又は契約の一部分(会計基準第6項)
「契約の締結時に、契約の当事者は、当該契約がリースを含むか否かを判断する」(会計基準第25項)とされ、リースの識別が求められます。この識別にあたっては、①資産が特定され、かつ、②特定された資産の使用を支配する権利を移転する場合に、契約はリースを含むことになります(同基準第26項)。
上記➁については、顧客が以下の(1)及び(2)をいずれも満たす場合に、顧客に「特定された資産の使用を支配する権利」が移転しているといえます(適用指針第5項)。
(1)顧客が、特定された資産の使用から生じる経済的利益のほとんどすべてを享受する権利を有している。
(2)顧客が、特定された資産の使用を指図する権利を有している。
※ リースの判定前なので、「借手」ではなく「顧客」となっています。
このように、リースや賃貸借以外の契約形態で例えば、資産が介在するサービス契約のなかに、新たにリース会計の対象となるものがないかを検討する必要があります。具体例は次回ご紹介します。
リース会計基準の国際比較
今回はIFRSと米国基準に焦点を当てて、リース会計基準の国際比較をします。
・国際会計基準審議会(IASB):2016年1月に国際財務報告基準(IFRS)第16号「リース」を公表。
・米国財務会計基準審議会(FASB):2016年2月にFASB Accounting Standards Codification(FASBによる会計基準のコード化体系)のTopic 842「リース」を公表。
両基準ともに使用権モデル(原資産の引渡しにより借手に支配が移転した使用権部分に係る資産である使用権資産と、当該移転に伴う負債であるリース負債を計上します。)を採用していますが、借手の会計処理に関しては主に費用配分の方法が次のように異なっています。
・IFRS第16号:リースがファイナンス・リースであるかオペレーティング・リースであるかにかかわらず、使用権資産に係る減価償却費及びリース負債に係る利息相当額を計上する単一の会計処理モデルを採用。
※ 日本の新リース会計基準も、この単一の会計処理モデルを採用しました。
・Topic 842:オペレーティング・リースでは通常、均等な単一のリース費用を認識する一方で、ファイナンス・リースでは減価償却費と金利費用を別個に認識するという2区分の会計処理モデルを採用。
Topic 842ではオペレーティング・リースを、均等なリース料と引き換えにリース期間にわたって原資産に毎期均等にアクセスする経済的便益を享受するものと捉えています。
暗号資産税制の国際比較
明けましておめでとうございます。本年もどうぞよろしくお願いいたします。
今回は暗号資産税制の解説の最後として、個人の所得税に絞って、暗号資産税制の国際比較を行います。
1.アメリカ
キャピタルゲイン課税
・1年以上保有した場合、最大20%までの税率で課税
・1年未満の保有の場合は、通常の累進課税
2.イギリス
キャピタルゲイン課税
一定の場合、税率20%
3.ドイツ
①1年超保有している場合には、原則、非課税
②1年以下保有の場合には、1年の利益合計が600ユーロ以下であれば非課税
4.フランス
キャピタルゲイン課税
・税率30%(ただし、累進税率が30%より低いときには累進課税を選択可)
・年間の利益が305ユーロ以下は非課税
なお、暗号資産間での交換をしてもキャピタルゲイン課税の対象になりません。
このように20~30%という固定税率が諸外国では採用されていますが、日本では累進税率となり最高税率が45%(住民税込みで55%)と諸外国に比して税負担が重くなっているため、海外に移住する暗号資産投資家が現れてきています。
そこで日本において暗号資産の業界団体、自主規制団体から一律20%の税率が適用される申告分離課税への税制改正の要望が出ています。