でんた丸ブログ
贈与による財産取得の時期
贈与税の納税義務は、「贈与(贈与者の死亡により効力を生ずる贈与を除く。)による財産の取得の時」に成立する(国税通則法15条2項5号)ところ、更正、決定及び賦課決定には6年の除斥期間(※)がある(相続税法37条1項)ため、贈与による財産の取得を税務署長が覚知せずに除斥期間が経過し課税の機会を失うという事態が生じえます。 そこで、贈与による財産取得の時期をどう解釈するかが問題となってきます(相続税法基本通達1の3・1の4共-8及び1の3・1の4共-11参照)。
※除斥期間の3つの特徴
①当事者の援用(時効により利益を受けるものが、時効の利益を受ける意思表示をすること)が不要である。
②中断(既に経過した時効期間が無意味となり、振り出しに戻ること)がない。
③権利の存続期間が予め予定されていて(ここでは6年)、その期間の経過により権利が絶対的に消滅する。
1.書面によらない(口頭による)贈与の場合
この場合、「その履行の時」が贈与による財産取得の時期となります。
書面によらない贈与は、履行が終了するまで解除することができる(民法550条)ため、財産が確定的に移動するのは履行の終了時となるからです。
(例)
贈与による財産取得が12月31日になされた場合と翌年1月1日になされた場合をみると、次のような流れがありえます。
①贈与による財産取得が2023年12月31日になされた。→受贈者は2024年3月15日までに贈与税の申告をしなかった。→2030年3月14日までに決定がなされなかった。→国の課税権は2030年3月15日に消滅する。
②贈与による財産取得が2024年1月1日になされた。→受贈者は2025年3月15日までに贈与税の申告をしなかった。→2031年3月14日までに決定がなされなかった。→国の課税権は2031年3月15日に消滅する。
口頭による贈与契約が2023年12月31日になされ、翌年1月1日に履行がなされた場合、贈与による財産取得が2024年1月1日になされたことになり、上記②の流れで国の課税権が2031年3月15日に消滅します。このように、贈与による財産の取得時期が1日違うだけなのに、国の課税権の消滅する時期が1年異なってくる場合があり得ます。
2.書面による贈与の場合
この場合、「その契約の効力の発生した時」が贈与による財産取得の時期となります。
(注)所有権等の移転の登記又は登録の目的となる財産について、上記1.や2.の基準では贈与の時期が明確でないときは、特に反証のない限り、その登記又は登録があった時に贈与があったものとされます。
代償分割と譲渡所得
前回は、代償分割と相続税の課税価格の計算についてみました。今回は、代償分割と譲渡所得についてみてみます。
1.代償財産として交付する財産が現金の場合
現金は譲渡所得を発生させる資産ではないため、譲渡所得の問題は生じません。
2.代償財産として交付する財産が、現金以外の不動産や株式などの場合
遺産の代償分割により負担した債務を履行するための資産の移転として、相続人固有の不動産や株式などを交付することになり、贈与とはなりません。従って、その履行をした人は、その履行の時における時価によりその資産を譲渡したとして、譲渡所得が発生する場合には所得税が課されます。
(注)代償財産の交付を受けた人に贈与税がかからないようにするために、代償分割を選択した場合、遺産分割協議書には「相続人甲は、・・・記載の遺産を取得する代償として、乙に対し、金○○円を令和●年●月●日までに支払うものとする。」等、当該財産の交付が贈与ではなく代償債務の履行としてなされることを明記する必要がありますのでご注意ください。
代償分割が行われた場合における課税価格の計算
遺産分割協議がなかなかまとまらず、相続開始時から大分時間が経過してから遺産分割協議がまとまるというケースがあります。このようなケースで遺産分割の方法として代償分割が選択された場合、代償債務の額が遺産分割時点の相続財産の時価を基に決定されるときがあり得ます。そこで今回は、このとき課税価格をどのように計算すべきか、について取り上げます(相続税法基本通達11の2-9・11の2-10及びタックスアンサーNo.4173参照)。
1.相続税の課税価格の計算
【代償財産の交付をした人の課税価格】
相続または遺贈により取得した現物の財産の価額から、交付をした代償財産の価額を控除した金額
【代償財産の交付を受けた人の課税価格】
相続または遺贈により取得した現物の財産の価額と、交付を受けた代償財産の価額との合計額
※代償債務を負担した人が、代償財産の交付をすることになり、当該交付をすれば、代償財産の交付をした人になります。
では、次に、この「代償財産の価額」とは何をいうのかを見ていきます。
2.代償財産の価額
「代償財産の価額」は、「代償債務の額」の相続開始の時における金額によることになります。
ただし、次に掲げる場合に該当するときは、当該「代償財産の価額」は、それぞれ次に掲げるところによるものとされます。
(1) 共同相続人及び包括受遺者の全員の協議に基づいて、代償財産の額を次の(2)に掲げる算式に準じて又は合理的と認められる方法によって計算して申告があった場合:当該申告があった金額
(2) (1)以外の場合で、代償債務の額が、代償分割の対象となった財産が特定され、かつ、当該財産の代償分割の時における時価を基として決定されているとき:次の算式により計算した金額
代償債務の額
×(代償分割の対象となった財産の相続税評価額
÷代償債務の額の決定の基となった代償分割の対象となった財産の、代償分割の時における価額)
※代償債務の額は、代償債務の額面金額のことで、「代償債務の価額」と一致するとは限りません。相続開始の時と、その後、遺産分割協議により代償分割が選択され実際に代償分割により遺産の分割がなされる時とは時点が異なるからです。
3.具体例
遺産の分割に当たって、共同相続人甲・乙のうち甲に相続により土地を取得させる代わりに、甲は乙に現金2,000万円を支払うことになりました。ここで、代償分割の対象となった財産である土地の相続税評価額4,000万円が、代償分割時には時価5,000万円に値上がりしたとします。なお、単純化のため、ここでは相続財産は当該土地しかないものと仮定します。
① 乙に支払うこととなった現金2,000万円(これが、代償財産となります。)という額が、「代償債務の額」の相続開始の時における金額として定められている場合
・甲の課税価格:4,000万円-2,000万円=2,000万円
・乙の課税価格:2,000万円
② 乙に支払うこととなった現金2,000万円(これが、代償財産となります。)という額が、相続財産である土地の代償分割時の時価5,000万円を基に決定された場合
・甲の課税価格:4,000万円-{2,000万円×(4,000万円÷5,000万円)}=2,400万円
・乙の課税価格:2,000万円×(4,000万円÷5,000万円)=1,600万円
遺産分割の方法
遺産分割の方法は、現物分割、代償分割、換価分割の3つに大別されます。
・現物分割:相続財産である現物を特定の相続人が相続する方法です。例えば不動産を分筆して、筆ごとに各相続人が相続する方法です。
・代償分割:特定の相続人が特定の相続財産を取得する代わりに、代償財産を他の相続人に交付する方法です。例えば不動産を配偶者が相続する代わりに、長男に対し代償債務を負担し、代償金を支払うという方法です。
現物分割で相続していくと、各相続人の相続分(※)どおりに分けるのが困難な場合に、代償分割で補完するという具合で用いられます。
※複数の相続人がいる場合に相続財産は相続人全員で共有することになるところ、相続財産に対する各相続人の持分(割合)のことを相続分といいます。
・換価分割:換金可能な相続財産をそのまま相続せず、売却して得た現金を各相続人に分ける方法です。例えば不動産を売却して、その売却代金を各相続人が相続する方法です。
低利息債務の評価
相続税法22条によれば、相続、遺贈又は贈与により取得した財産の価額から控除すべき債務の金額は、その時の現況によるとされています。現状は金利が非常に低くあまり問題視されていないのですが、今後は金利が上昇していくことが予想されるため、今回は、通常の利率よりも約定利率が低い債務の評価の仕方について簡単な例を用いてみてみます(最高裁昭和49年9月20日判決参照)。
(例)
・通常の利率:年3%(その時々の金融市場の趨勢から相当な利率を判断します。)
・約定利率:年1%
・債務の元本金額:1億円
・元本の返済条件:5年後に一括弁済
・利息の支払条件:1年毎の後払い
この場合、通常の利率で利息を毎年払うと同時に、通常の利率による利息と約定利率による利息との差額に相当する給付を毎年受けるのと経済的にみて同様と考えます。従って、毎年300万円の利息を払い、200万円を同時に受け取ると考えます。そして、この毎年受け取る200万円を、通常の利率で複利により割り引いた現在価値分だけ、元本の1億円から差し引いた金額が、この場合の債務の評価額となります。
・1年後の200万円の割引現在価値:1,941,747円
・2年後の200万円の割引現在価値:1,885,191円
・3年後の200万円の割引現在価値:1,830,283円
・4年後の200万円の割引現在価値:1,776,974円
・5年後の200万円の割引現在価値:1,725,217円
上記の割引現在価値の合計額:9,159,412円
この9,159,412円を1億円から差し引いた金額である90,840,588円が、この例における低利息債務の評価額となります。