でんた丸ブログ

暗号資産税制の国際比較

明けましておめでとうございます。本年もどうぞよろしくお願いいたします。

今回は暗号資産税制の解説の最後として、個人の所得税に絞って、暗号資産税制の国際比較を行います。

1.アメリカ

キャピタルゲイン課税

・1年以上保有した場合、最大20%までの税率で課税

・1年未満の保有の場合は、通常の累進課税

2.イギリス

キャピタルゲイン課税

一定の場合、税率20%

3.ドイツ

①1年超保有している場合には、原則、非課税

②1年以下保有の場合には、1年の利益合計が600ユーロ以下であれば非課税

4.フランス

キャピタルゲイン課税

・税率30%(ただし、累進税率が30%より低いときには累進課税を選択可)

・年間の利益が305ユーロ以下は非課税

なお、暗号資産間での交換をしてもキャピタルゲイン課税の対象になりません。

このように20~30%という固定税率が諸外国では採用されていますが、日本では累進税率となり最高税率が45%(住民税込みで55%)と諸外国に比して税負担が重くなっているため、海外に移住する暗号資産投資家が現れてきています。

そこで日本において暗号資産の業界団体、自主規制団体から一律20%の税率が適用される申告分離課税への税制改正の要望が出ています。

暗号資産に関する課税ルール

メルカリでビットコインによる決済が可能になり、暗号資産の利便性が高まる一方で、暗号資産に関する日本での課税ルールは、国民が暗号資産にアクセスしたり利用したりすることを躊躇させる内容であると批判されることがあります。暗号資産に係る所得に対する日本の税率が高いため、海外へ移住する個人投資家も現れています。そこで、今回は日本での暗号資産に関する課税ルールを取り上げ、次回は暗号資産に関する課税ルールの国際比較を行います。

1.個人の暗号資産取引による所得の区分

暗号資産取引により生じた損益は、邦貨又は外貨との相対的な関係により認識される損益とされ、原則として雑所得(所得税法35条1項、2項2号)に区分されます。但し、その年の暗号資産取引に係る収入金額が300万円を超え、かつ当該取引に係る帳簿書類の保存がある場合には、原則として事業所得(同法27条)に区分されます。いずれの場合も、総合課税の対象となるため、超過累進税率(住民税込みで最高55%)が適用されます。

※ 国税庁は、暗号資産を支払手段つまり資産の値上がり益が生じない資産として位置づけており、譲渡所得(所得税法33条1項)の基因となる「資産」には該当しないとの見解を採用しています(国税庁「雑所得の範囲の取扱いに関する所得税基本通達の解説」参照)。

なお、暗号資産同士の交換を行った場合にも、課税が発生します(この点は法人が当該交換を行った場合も同様です)。つまり、保有するビットコインをイーサリアムに交換した場合であれば、イーサリアムをビットコインで購入したこととなり、当該ビットコインの含み益に対して課税されます。

以上のように、暗号資産取引に関しては、上場株式等に係る譲渡所得等の金額に対する課税と比較して税負担が重いため、上場株式等の場合と平仄を合わせる形で税率20%の申告分離課税等への税制改正を要望する向きがあります。

2.  法人が暗号資産を保有している場合

法人が事業年度終了の時において有する暗号資産(活発な市場が存在する暗号資産に限り、かつ特定自己発行暗号資産を除く。国税庁「暗号資産等に関する税務上の取扱いについて(FAQ)」参照。)につき、時価法による評価換えを行い、その際に生じた評価損益をその事業年度の益金の額又は損金の額に算入する必要があります(法人税法61条2項1号、3項)。そして翌事業年度には、この評価損益につき、洗替処理を実施します。

3.  消費税

消費税法上、支払手段及びこれに類するものの譲渡は、非課税とされているところ、国内の暗号資産交換業者を通じた暗号資産の譲渡は、この支払手段等の譲渡に当たり消費税は非課税となります(消費税法6条1項・同法別表第2第2号・同施行令9条4項)。

また、課税売上割合の算出に当たっては、支払手段等に該当する当該暗号資産の譲渡につき、非課税売上高に含めて計算する必要はありません(消費税法30条6項・同施行令48条2項1号)。

暗号資産(仮想通貨)

2024年1月にSEC(米証券取引委員会)が、代表的な暗号資産であるビットコインの現物に投資するETFを承認すると、このビットコイン現物ETFに、機関投資家(ヘッジファンド、投資銀行、長期運用を基本とする米国の年金基金)の投資マネーが流れ込み、ビットコインの価格が急上昇しました。その後12月4日に、暗号資産の推進派で、金融規制の緩和論者であるポール・アトキンス氏が、トランプ次期米大統領からSECの次期委員長に指名されると、ビットコインの価格が初めて10万ドルの大台を超えました。

昨年末比で約2.5倍の価格上昇をしているビットコインですが、暗号資産には次のような長所と短所があります。

【長所】

・発行総量に上限がある(埋蔵量に限りがある金に似ている)。

・無国籍で特定の発行体による信用リスクがない。

→インフレ耐性がある価値保存の手段となる。

【短所】

・裏付けがないため、投機的な需給で価格が動く要素が強く、短期的な価格変動が大きい。

・ブロックチェーンが暗号資産の基盤技術となるところ、暗号資産の採掘時に計算能力の高いコンピュータを稼働させるために膨大な電力を必要とし、SDGsの精神に反する。

次回は暗号資産に関する課税ルールを取り上げます。

新リース会計基準の影響

新リース会計基準が採用した使用権モデルの下では、原則として使用権資産とリース負債がオンバランスされるところ、これらの内容の詳細については今後解説していきます。

まずは新リース会計基準の適用の影響について、一覧してみます。

(1)借手はオペレーティング・リース(これまでは通常、均等な単一のリース費用を認識してきました。)についても、使用権資産とリース負債を計上した上で、その後、営業費用の区分で減価償却費を、営業外費用の区分で支払利息を別個に認識することになります。このことにより次のような影響が生じてきます。

①仕訳の増加と、それへのシステム対応

②営業外費用たる支払利息を別個に認識することによる、営業利益やEBITDAの上昇

③利息相当額の総額を借手のリース期間中の各期にわたり定額で配分する場合でなく、利息相当額を利息法で会計処理する場合には、支払利息の認識が前加重(前倒し)となるため、リース期間の後半より前半の方が費用計上額が大きくなる。

④使用権資産とリース負債を計上することによる自己資本比率や総資産利益率(ROA)の低下

⑤自己資本比率の低下による、銀行借入における財務制限条項への抵触の可能性

⑥使用権資産の計上による、潜在的な減損損失の計上対象資産の増加

⑦オペレーティング・リースにより利用してきた動産について、複雑な仕訳を回避するために、リースから購入への切り替えの検討

(2)契約の法形式を問わず、実質的にリースを構成する部分が契約に含まれていると判断した場合には、借手は(1)で述べたような会計処理を行う必要があります。このことから次のような負担が生じてきます。

①役務提供契約等の中に「実質リース」や「隠れリース」が含まれていないかの洗い出し

②上記洗い出しをした上での、利用しているリースのデータ項目の一覧化

③リース料改定などの情報を入手した時点での、タイムリーな使用権資産とリース負債の再測定

(3)借手のリース期間に見積りの要素が大幅に加わりました。つまり、借手が行使することが合理的に確実であるリースの延長オプションの対象期間と、借手が行使しないことが合理的に確実であるリースの解約オプションの対象期間が、解約不能期間に加わってリース期間が決定されることになります。

この「合理的に確実」といえるか否かを借手の統制下にある重要な事象又は状況から判断する必要があり、実際に当該オプションを行使する前の時点でリース期間が延長となり、使用権資産とリース負債のタイムリーな再測定をしなければならない場面が生じえます。

このように新リース会計基準の適用対象企業には、業務プロセスの変更やシステム対応といった負担が新たに生じえます。そこで、借手の負担軽減の観点から、1契約当たりのリース料が300万円以下の少額リースについては、貸借対照表への計上を不要とするのみならず原則として契約期間だけでリース期間を判断することができることとし、また、借手のリース期間が1年以内で購入オプションを含まない短期リースについても貸借対照表への計上を不要とすることができるとされました。詳細は、企業会計基準適用指針第33号「リースに関する会計基準の適用指針」第20項ないし第23項をご覧ください。

リース会計基準の変遷

新リース会計基準が、ASBJから2024年9月に公表され、上場企業及び会社法上の大会社への適用が義務付けられることとなりました。原則的な適用時期は、2027年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首からですが、2025年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首からの早期適用も可能です。

そこで今回はまず、リース会計基準が、これまでどのように変遷してきたかをみます。なお、以下の基準改正の年月は、リース会計基準が公表された時点です。

元来、リース取引は、その法的形式に従い賃貸借取引として処理されてきたため、資産・負債は、リースのどの類型であってもオフバランスでした。

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【1993年6月の基準改正】

リース取引をファイナンス・リース取引とオペレーティング・リース取引に分類し、前者については、その経済的実態に着目し、売買処理を採用しました。

ただし、所有権移転外ファイナンス・リース取引については、一定の注記を要件として賃貸借処理(以下「例外処理」という。)が例外的に認められました。

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代替的な処理が容認される理由としての本来の姿は、異なった経済的実態に対して、代替的な処理である異なる会計処理を適用することで、事実をより適切に伝えられるようにするためというものです。

しかしながら、大半の企業において、従来どおりの会計処理を行えば済む例外処理の簡便さ故に、所有権移転外ファイナンス・リース取引を賃貸借処理し、経済的実態が異ならないのに代替的な処理を選択するという特異な状況が生じていました。

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【2007年3月の基準改正】

このような特異な状況が生じないよう、例外処理は廃止されました。

これにより当時のIFRS「リース」と平仄が合うことになりました。

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2016年1月にIFRS第16号「リース」が公表され、借手において、ファイナンス・リース取引とオペレーティング・リース取引の区別をしない単一の使用権モデルが採用されました。

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【2024年9月の基準改正】

現行のIFRS「リース」と平仄を合わせる改正がなされ、以下の2点が実現しました。

①使用権を支配する権利は概念フレームワークにおける「資産」の定義を満たすため、借手は使用権資産を計上する。

②使用の有無にかかわらず、リース期間において、借手はリース料の支払い義務を負うため、借手はリース負債を計上する。

このように、今まで賃貸借処理がなされ、貸借対照表上オフバランスだったリースが、貸借対照表上オンバランスされることになりました。

新リース会計基準は、現行のIFRS「リース」の主要な定めのみを取り入れることにより、簡素で利便性が高く、かつ国際的な比較可能性を大きく損なわせないような基準となっています。


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