でんた丸ブログ

相続時精算課税制度の効果及び注意点

今回は前2回のまとめとして、相続時精算課税制度の効果及び注意点をご紹介いたします。そして、次回からは、相続時精算課税と暦年課税にまつわる複数の留意点についてご紹介していきます。

1.相続時精算課税制度を利用する場合の効果

①令和6年1月1日以後に受けた贈与について、年間110万円の基礎控除があり、この年間110万円の基礎控除枠内の生前贈与は、相続発生時に相続財産への加算の対象となりません(今般の改正項目)

②年間110万円の基礎控除とは別に累計2500万円の特別控除枠があります。この特別控除枠を利用して、被相続人が安定した家賃収入が見込める賃貸アパートや高配当の有価証券を生前贈与した場合には、当該家賃や配当が、相続発生時に生前贈与加算の対象になることはありません。

③贈与税率が一律20%になります。

④相続発生時における生前贈与加算は、贈与時の時価でなされます。そのため、贈与時よりも相続時に時価が高くなるのが確実な財産を生前贈与した場合には、相続税の節約になります。

2.相続時精算課税制度を利用する際の注意点

①自宅や事業用物件を相続時精算課税制度により贈与した場合、小規模宅地等の特例を使うことができません。また、不動産取得税や登録免許税が課税されます。

②相続時精算課税制度で贈与された財産を、相続税の物納に用いることはできません。

③相続時精算課税を選択し届出書(贈与者ごとに作成)を提出した後は、暦年課税に切り替えることはできません。

 

暦年贈与

今回は、前回の相続時精算課税制度に引き続き、暦年課税とその令和5年度における改正のポイントについて、ご紹介いたします。

1.暦年課税

前回ご紹介した相続時精算課税制度と同様に、暦年課税においても年110万円の基礎控除があるため、年110万円以下の生前贈与を長期間継続することにより、無税で多額の財産を移転できます。

(注1)

例えば「1100万円を10年間にわたり110万円ずつ贈与する」という内容の贈与契約を締結した場合には、毎年の贈与金額が110万円以下であったとしても、当該贈与契約の締結を行った年に「定期金に関する権利」の贈与を受けたとして、1100万円に対して贈与税が課されます。

従って、予め「1100万円を10年間にわたり110万円ずつ贈与する」という意思がある場合には、税務調査の際に「定期贈与(毎年一定の金額を贈与することが決まっている贈与)」とみなされ、1100万円に対して贈与税が課されることがあるのでご注意ください。

(注2)

相続時精算課税に係る贈与税の基礎控除(相続税法21条の11の2第1項)は、従来からの暦年課税に係る贈与税の基礎控除(相続税法21条の5)とは別のものという位置づけになっています。それ故、これら2つの基礎控除を共に適用する(相続時精算課税選択届出書に係る贈与者以外の者からの贈与がある場合に可能となります。)ことにより、年間で220万円までの贈与について贈与税が課されないことになります。

2.令和5年度の改正のポイント

(1) 相続開始前に贈与があった場合の相続税の課税価格への加算対象期間が、以下のように今後段階的に延長されていきます(相続税法19条1項)。

【相続開始日】                                 【対象期間】

①2024年1月1日~2026年12月31日 →   相続開始前3年間

②2027年1月1日~2030年12月31日 →   2024年1月1日~相続開始日

③2031年1月1日~         →   相続開始前7年間

(2) 相続開始前に贈与があった場合の相続税への加算額

今般の改正により延長された期間、つまり相続開始前3年超7年以内に贈与を受けた財産の価額については、相続税の申告の際に確認すべき生前贈与の記録及び管理に要する事務負担を軽減する趣旨から、相続人等ごとにそれぞれ総額100万円までの範囲で、相続税の課税価格に加算しないこととされました(相続税法19条1項、他に相続税法基本通達19-1、19-6なお書きも参照)。

(参考)

上記(1)の加算対象期間の長さについては、下記の諸外国の例を参考にしつつも、(2)で述べた納税者における生前贈与の記録及び管理に要する事務負担をも考慮して決定されました。

米国       : 一生涯

フランス   : 相続開始前15年間

ドイツ    : 相続開始前10年間

相続時精算課税制度

令和5年度の税制改正により、相続時精算課税において2024年1月から年110万円の基礎控除(非課税枠)が創設されました。一方で、暦年課税においては、今後段階的に相続財産に加算される生前贈与の対象が広がっていきます。そこで、今回はまず、相続時精算課税制度及びその改正のポイントをご紹介いたします。

1.相続時精算課税制度

相続時精算課税制度は、平成15年度税制改正により創設されたものです。その創設の趣旨は、生前贈与と相続との間で資産移転の時期の選択に対して中立的な仕組みを確保する点にありました。

しかし、暦年課税の下では年110万円以下の贈与であれば贈与税の申告が不要となる一方で、相続時精算課税制度を選択した後の贈与については、確かに累計2500万円までの特別控除はありますが、贈与税の申告自体は金額にかかわらず必要とされていました。このように相続時精算課税制度の使い勝手が良くなかったため、今までは贈与税においては、暦年課税が主流となっていました。

2.令和5年度の改正のポイント

今般の改正により、2024年1月1日以後に受けた贈与については、相続時精算課税制度の下でも暦年課税と同様に、年110万円以下の贈与であれば申告が不要となりました(相続税法28条1項)。しかも暦年課税とは異なり、年110万円以下の贈与であれば、相続財産に一切加算されません(相続税法21条の15第1項、21条の16第3項)。もっとも累計2500万円の特別控除分の生前贈与については、従来通り、相続発生時に相続財産に加算されます。

(注1)

相続時精算課税に係る贈与税の相続税法上の基礎控除額は、暦年課税に係る贈与税の基礎控除(相続税法21条の5)の場合と同様に60万円です。しかしながら、租税特別措置法によりいずれの場合も110万円に引き上げられています(租税特別措置法70条の2の4第1項、70条の3の2第1項)。そこで、ここでは、いずれの場合も基礎控除額を110万円とします。

(注2)

相続時精算課税の適用により相続税の課税価格へ加算された価額については、相続等による取得のみで適用される「小規模宅地等の特例」の適用はなされません。

学校法人における確定申告

申告期限の延長の届出をしていなければ、3月末を事業年度終了の日としている内国法人の場合、5月末までに確定申告書を税務署長に提出する必要があります(法人税法74条、なお消費税については、消費税法45条1項参照)。そこで、今回は学校法人においての確定申告について、ご紹介いたします。

1.法人税

学校法人は、法人税法別表第2に掲げられており、公益法人等(法人税法2条6号)に区分されます。公益法人等は、法人税法上、収益事業から生じた所得に対してのみ課税されます(同法4条1項)。

2.消費税

一方で、消費税法上は、以下の4要件を満たす国内取引であれば、消費税の課税の対象となります(消費税法4条1項・2条1項8号)。

①国内において行うものであること、②事業者が事業として行うものであること、③対価を得て行うものであること、④資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供であること

もっとも、学校法人を含む公益法人等では、特定収入とされる補助金等の収入割合が高いことが多く、消費税の計算上、この特定収入を考慮する必要が出てきます。つまり、特定収入は資産の譲渡等以外の収入となるために課税売上からは除かれる一方で、特定収入を財源とした支出は消費税の課税対象となることが多い下では、一般企業のように控除対象仕入税額を算出すると、特定収入に見合う部分の還付消費税額が多額になってしまうのです。そこで、特定収入が賄っている課税仕入れ等の税額に相当する金額を控除した残額に相当する金額を、控除対象仕入税額とすることになります(消費税法60条4項、消費税法施行令75条)。

 

 

円安に伴う為替差損の税務上の取扱い

現在、円安が進行中です。円と米ドルとの間の為替相場におけるTTMでは、

2021年3月末 1ドル110.71円 → 2022年3月末 1ドル122.39円 → 2023年3月末 1ドル133.53円

→ 2024年3月末 1ドル151.41円

となっています。

このように外国為替相場が著しく変動した場合には、法人税法61条の9第4項・法人税法施行令122条の3第1項に次のような内容の規定があります。すなわち、事業年度終了の時に有する外貨建資産等(外貨建株式等を除く。)に係る外国為替の売買相場が著しく変動した場合には、(長期外貨建金銭債権債務であっても、)その外貨建資産等と通貨の種類を同じくする外貨建資産等のうち、外国為替の売買相場が著しく変動したもののすべてにつき、その事業年度終了の時にその取得又は発生の基因となった外貨建取引を行ったものとみなして、期末の外国為替相場による換算のし直しを認めています。従って、この規定を適用して期末の換算替えを行い、為替差損を計上した場合には、別表4の税務調整は不要となります。

(注1)

上記の著しい為替相場の変動とは、以下の計算式で計算をして、おおむね15%(下限割合は、13.5%とされています。)に相当する割合以上となる場合とされています(法人税基本通達13の2-2-10)。

((A)-期末における外貨建資産等の帳簿価額(本規定適用前))÷期末の外国為替相場により換算した外貨建資産等(A)

(注2)

外国通貨の種類を同じくする外貨建資産等のうちに、上記の算式により計算した割合がおおむね15%に相当する割合以上となるものが2以上ある場合には、その一部についてのみ同項の規定による円換算を行うということはできません。従って、例えば、外貨建債権は換算のし直しを行わずに、外貨建債務のみ換算のし直しを行うということは認められません。


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