ベテラン会計士のブログ
過大役員退職給与
「事業承継にあたって創業者である社長に退職金を支給したいが、いくらにしたらいいのか?」
事業承継対策が急務となっている昨今こんな相談を受けることが多々あります。
退職金の計算方法は、一般的には、「最終報酬月額×職務執行期間×功績倍率」という計算式で計算されます。
報酬月額と職務執行期間については、大きな問題にはならないのですが、「功績倍率」をめぐっては、多くの裁判例が存在しています。
社長の功績倍率は「3.0倍」であれば大丈夫といったようなことをよく耳にします。
これは、昭和55年5月26日の東京地裁判決で「全上場1,603社の実態調査の結果から算出される功績倍率の平均が社長3.0、専務2.4、常務2.2、平取締役1.8、監査役1.6である」と判示したことが要因のようです。
ただ、これを素直に使ってしまうのは、非常に危険だということが言えます。
平成25年7月18日の東京高裁判決では「最高功績倍率を用いるべきか平均功績倍率を用いるべきか」が争われ、平均功績倍率(1.18倍)を妥当としました。
この判決が出る前までは、最高功績倍率を妥当とする判決が多く存在していたのですが、この判旨では、「最高功績倍率を用いるべき場合は、同業類似法人の抽出基準が必ずしも十分でない場合や、その抽出件数が僅少であり、かつ、最高功績倍率を示す同業類似法人が極めて類似している場合に限る」とされ、安易な「社長3.0倍」は極めて危険な判断だということが明確になったと考えられます。
では、平均功績倍率にすれば問題ないのでしょうか?
判旨を読んでいると、やはり条文の解釈が根拠となっているのですね。
法人税施工令第70条第2号では、過大な役員退職給与の判断基準として以下の3つの視点から判断すると記しています。
・当該役員のその内国法人の業務に従事した期間
・その退職の事情
・その内国法人と同種の事業を営む法人でその事業規模が類似するものの役員に対する退職給与の支給の状況等
ここで重要なのは、最後の「同種類似規模法人の支給状況」です。
今後、役員退職給与の金額を検討する際は、「同種類似規模法人の支給状況」を資料等で探し出し(書籍も出ています)、比較検討の上、最高功績倍率が使える状況なのか、平均功績倍率とすべきなのか、検討の上、論拠をしっかりと固めることが重要なのだと思います。